抽選の運がない自分が初めて当たった試写会

ということで見て来ました。本公開は5月13日に設定されているコーエン兄弟の最新作「ヘイル、シーザー!」を。


コーエン兄弟の作品はここ10年ほどの作品しか見ていないんですが、最も好きなのは「ノー・カントリー」です。
と、まあ急な自己紹介はここまでにして、本作「ヘイル、シーザー!」の話をしましょう。

今作は、1950年代のアメリカ(ハリウッド)映画業界を中心に物語が展開します。
主人公は、一応、ジョシュ・ブローリン演じるマニックスだと思うんですが、広告やトレイラーをみていただければわかるように、キャストの顔ぶれは非常に豪華。

前述のジョシュ・ブローリンはもちろん、ジョージ・クルーニー、スカーレット・ヨハンソン、レイフ・ファインズ、ティルダ・スウィントンなどなど…あ、チャニング・テイタムとジョナ・ヒルの「ジャンプ・ストリート」コンビも忘れちゃいけない(本編では絡まないが)。とにかく、僕に近い思考回路を持つミーハーならそれだけで心躍ることは間違いないと思う。

とはいえ、映画で大切なのは中身!ってことで、少しだけネタバレを話してしまうかもしれないけど、見た感想をつらつらと書いていこうと思う。


まず、結論から言うと、この映画はとても面白かった。この映画、すごいです。実は少しアカデミックな映画でもあります。106分の上映時間は、最近の映画にしては短めという印象を抱くかもしれませんが、コンパクトでまとまってた。ようは、ちょうどよかった。

そして、演技は言わずもがな。本当に芸達者な役者ってすごいな、と思わせてくれる人たちばかりで、各キャストの過去出演作を見ている人ほど、より感銘を受けるんじゃなかろうかと思う。アルデン・エーレンライクのホビー・ドイルがとても良くって、無能で有能なんて言葉が成立するキャラだなあなんて見ながら思った。とかくキャラクターが立っていて
見ていて愉快になるキャラクターばかりだった。

次に、本作のジャンルはなんだろうと思ったので、ciatrを覗いてみたら、サスペンス・ミュージカルコメディとあった。

サスペンス、チェック。ミュージカル、チェック。コメディ、チェック。

合ってる。どの要素も入ってるますが、全編通してコメディに比重を置いてるのが本作。サスペンスとはいえ、シリアスな描写などほぼ皆無で、「ノー・カントリー」とはまったく趣の異なる映画作りでした。シリアスな部分も、最後までコメディチックで、どこか良い意味で抜けた印象を受けるのは、コーエン兄弟の手腕とキャスト陣の演技力によるものでしょう。

しかし、僕が「ヘイル、シーザー!」のジャンルを定義するなら、「サスペンス・ミュージカルヒストリーコメディ」 だろうと思う。もっと言うなら、「ちょっとサスペンス・そこそこミュージカル(一呼吸置いて)ヒストリーコメディ」とするでしょう。

ヒストリーってなに?と思う人がいるでしょう。ま、そもそもこれを僕以外の人が何人言ってるかはわかりません。
が、この映画は、ハリウッド映画業界 の歴史を織り交ぜたコメディ映画だと言えます。

それでは、少し今から誰得な歴史の授業を。

この作品は冒頭に書いたように1950年代のハリウッド映画業界が舞台です。 
この年代から、アメリカではテレビが爆発的に普及し始め、映画を観る客の数が激減していました。映画業界はというと、これに対抗するため、シネマスコープ、シネラマなどのワイドスクリーンや大型スクリーンを設置したほか、カラー化を促進。さらに大型予算を用いた大作の量産などいわゆるブロックバスター的思考が業界を支配していたんですね。

この部分は本作の中でも描かれており、 マニックスが転職の誘いを受けている際、ロッキードの社員にテレビの普及が云々だの映画なんて云々だの言われていたし、劇中劇「ヘイル、シーザー!」は巨額の資金で制作されているという言及がマニックスからあったりした。そう、本作は単なるサスペンスやコメディを見せる映画ではなく、史実をベースにした映画だということです。

また、この時代のハリウッド映画がスターシステムと密接な関係にあることも触れておきましょう。ティルダ・スウィントンが演じるそっくりの姉妹記者はジョージ・クルーニー演じるウィットロックの記事を書きたがります。有名人のゴシップはいまでこそ、ネットやモバイル機器の発達によって瞬く間に拡散するようになりましたが、1950年代当時はインターネットなんて存在しませんから、足でネタを取るしかないわけですね。でも、当時は基本的に映画会社(作中で言うところのキャピトル・ピクチャーズ)と俳優は専属契約を結んでおり、俳優の実生活に干渉することもしばしば。最序盤で女優が撮影会してるところに乗り込んだマニックスが肖像権について触れていました。

さらに、ウィットロックを誘拐したのは共産党員ですが、これもアメリカ映画史に密接に関わった事実がベースとなっています。どういうことかと言うと、この時代、というより1950年代から1960年代あたりまでハリウッドは、共産党員とそのシンパを追放しようとしていました。いわゆる「赤狩り」ですね。赤狩りの是非はともかく、ソ連の影響力が強い当時、ハリウッドでは共産主義者を排斥しようとしていた一方で、業界内には共産主義者が大勢いました。誘拐犯たちは、脚本家だと言っていたので、おそらく、というか十中八九「ハリウッド・テン」がモデルであることは間違いなく、ここでもアメリカ映画史における重要なポイントを描いています。



以上のように、本作でコーエン兄弟は、ハリウッド映画界が歩んできた歴史を鮮やかに盛り込みながら、サスペンスやコメディとして仕立てているんです。上から目線で恐縮ですが…すごいぞコーエン兄弟!!!!!すごいなーって思いながら見ましたよ。なんか歴史の話ばっかしてしまったので、もっとちゃんとした感想は、ほかの方の記事読んでください…すいません。

ほかにも事実ベースの描写があった気もしないでもないですが、もう一回見てみないとなんとも…ただ、チャニング・テイタムが出ていたようなミュージカル映画は1950年代から1960年代にかけて隆盛を極めたので、劇中劇のような作品が多く制作されていたのは事実です。

「ヘイル、シーザー!」はハリウッド映画史を知らなくても十二分に面白い映画です。もちろん、このようなハリウッド映画史を知っていればより楽しめる作品であることは確かですが。人は死なないので、コーエン兄弟の過去作みてない人もみた人も安心してください。明るいコメディ映画になってますよ。


余談ですが、なんで僕がハリウッド映画史をちょっとだけ話せるのかというと、大学でアメリカ映画についての卒論を書いたからです。まさかここでその経験が活きるとは思いもしませんでした。